システム化は生産性向上への取り組みにどう影響するか

少子高齢化社会に伴う就労者人口が減る中、長期化するコロナ禍の影響で、多くの企業がより一層「働き方改革」や「生産性向上」に取り組まなければならない状況に直面している。
しかし、生産性向上にどの様に取り組めば良いのか?という具体論になると「各種ITシステムを導入する」「DXを推進する」「労務関連制度を見直す」といった形で、漠然としすぎていたり、担当者任せになっていたりと、「まず何から始めるべきか?」が不明瞭なまま議論されてはいないだろうか?そこで生産性向上にあたっての「考え方」と「何から始めるべきか」を本コンテンツにまとめた。

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おさえておきたい「生産性向上」のためのヒント

「働き方改革」は「生産性向上」にあらず!?

働き方改革の取組として思いつくのは「残業抑制」「フレックスタイムやテレワークなどの正社員の就業規則の改善」「パートタイムや有期雇用等の勤務体系の見直し」などがある。
このような取組によって社員の勤務時間の抑制は実現できるかもしれない。 また「働き方」を見直す事で、社員のモチベーションが向上したり、無駄な仕事を削減していこうという意識が強くなったりといった意識面での副次的効果も期待でき、結果として生産性向上に寄与する可能性はあるが、この様な取組そのものが直接的な「生産性向上」の取組とはいえない。

次に生産性向上(※1)の取組として思いつくのは「事務処理のシステム化」などである。しかし、これもまた顧客への付加価値そのものを高める事はなく、「業務効率化」をしているに過ぎない。

一見すると「働き方改革」や「事務処理のシステム化」は「生産性向上の取組」という面では成立する一方、殆どの企業の場合価値提供能力を維持または向上させつつという大前提があるが故に悩むのである。

では、価値提供能力を向上させるとはどういうことか。現在、企業における「価値提供能力」の「価値」とは、あくまでも「市場-顧客」が決める事で、多くの企業の価値提供の力を高める取組は「営業効率化」「製品改良」「品質改善」「原価低減」といった範囲に留まっているのが現状である。

1「生産性」とは労働・資本などの生産諸要素の有効利用の度合い。高いほど「生産性が高い」といえる

生産性向上の新常識とは?

ここまで、今までの生産性向上の取組は「内向き」な「社内の対策」に留まる事が多くそれだけでは「生産性向上」とは言えないということを述べてきた。

これに加え、インターネットによる市場環境の変化を前提とした「生産性向上(労働時間削減と価値提供能力の維持・向上」を考えなければならない。では、まずインターネットによる市場環境の変化とは何か?を考えてみたい。
キーワードは以下の3点である。

[インターネットによる市場環境の変化]

  1. モノからコト(サービス)
  2. サービスの明確化・デジタル化
  3. フロー型からストック型

1.モノからコト(サービス)

モノからコト(サービス)へという掛け声自体は2005年位には既に言われているが、IoTといった技術によってサービス提供の能力自体は企業は比較的容易に手に入れられる様になった。

ただし顧客側が物質的価値ではなく体験価値(CX)を重視するという事はBtoC企業に限った話でBtoB企業はあくまでも製品品質と価格による価値(物質的価値)が重要だと考える傾向が強く、IoTもイコール製造ラインのセンシング技術と捉える事が多い。

しかし、重機にGPSを組込み盗難対策を行なう。どの様なニッチな部品でも即納で揃える。納入後の故障をIoTで把握しコールセンターと連動、保守性を高め稼働率を向上。といった事は全てBtoBの話である。

2.サービスの明確化・デジタル化

元来サービスは曖昧模糊として、情緒的で価値基準が明確でないとされてきた。
顧客側としてもサービスを受益する際には、例えばサービス提供者のブランドバリューと言ったものに対価を支払っており、ブランドは積み重ね(歴史)によって構築されるとされてきた。

しかしインターネットを介したサービスにおいては、サービス提供は全て仕組化されており、価格も明瞭である。そこにはサービスが気に入れば「クリック」で申込を行い、サービスが気に入らなければ「クリック」をして解約する。という行為があるだけであり、解約するにあたって営業マンから解約のデメリットを滔々と説明される様な事はない。
そして多くの人、企業が後者(営業マン)を煩わしく思い、前者(クリック)を望む傾向があり、今後は更にそれが加速するであろう事は容易に想像がつく。

3.フロー型からストック型

上記株式会社ミカサ様に、売切り型のモノ売りフロービジネスから、サービス型のストックビジネスへの変革を目指す企業は少なくない。
「2」で示した通り顧客自身がそれを望む傾向があり、それをいち早く感じてとっているからである。企業における内部的(財務的)な欲求からフロー型よりストック型を目指す向きもあるが、 顧客ファーストの発想でなかった場合、それこそクリック一回で解約されてしまいビジネスの変革はとん挫する。

またストック型のビジネスは常に顧客への価値提供を行っている状態を保つ必要があり、 フロー型の様に、内部のプロセスの最終アウトプットとしての商品という形ではなく、内部プロセスと顧客への価値提供が一体になる点も忘れてはならない。
即ち「モノ」を通じた「サービス」であったとしても「クリック」により製造をスタートし、価値提供は継続性を持つといった性質上から、内部プロセスは価値提供と一体となる。

この様に、インターネットの発展による「市場-顧客」の変化がもたらす「価値提供」の在り方を考えた時、顧客は単純なモノではなくサービスとしての価値提供を望んでおり、 且つサービスはより明確化されたものである。その前提においてビジネスの在り方はフロー型ではなくストック型になっていく。

重要なポイントは「顧客の欲求が変化している前提に立ち、その上で顧客が真に何を望んでいるのか?」を発想する事である。顧客が求めるサービスを考える時、 売り手の理論・企業内組織理論(提供サービス別、機能組織別) で顧客と接していては、顧客との距離は縮まることはないだろう。

即ち、生産性向上の新常識とは、内向きな議論になりがちな「生産性向上」を、顧客の変化も捉えた「顧客視点」からのサービス提供を考え、 その上で自社の価値提供プロセスを見直す事で生産性を向上させる取組と考える。

顧客と自社が提供する価値の本質を定義する

[顧客は誰か]

まず「顧客は誰か?」「自社の提供する価値の本質は何か?」をしっかりと定義する事からお勧めしたい。次に、その価値を提供するにあたって自社のプロセスがどうあるべきか定義する。

シンキングリードでは、この顧客への(有効な)価値提供をする為のプロセスをCRP(カスタマーリレーションシッププロセス)と呼んでいる。
CRPは内部のコスト削減のみ設計されたプロセスや、部門論理によるプロセスではなく、サービス提供のプロセスにおいて顧客が望む自社との関係性という視点で整理していく事がポイントとなる。 類似するものに「カスタマージャーニーマップ」があるが、カスタマージャーニーマップが顧客体験を軸に、Webサイトの導線を検討するのに用いられるのと比較し、CRPは価値提供を軸に自社の全機能組織を横断して検討する点が大きく異なる。

単に既存のやり方の延長でのデジタル化ではなく、CRPを整理する事で、 価値提供している既存の「市場ー顧客」からの変革のネタを探し、顧客に価値提供するにあたって自社のプロセスの無駄や、非効率な点を洗い出し改善することができる。

この事により生産性向上(労働時間の削減と価値提供能力の向上)を望むべきと考えている。 CRPの検討はイノベーションを科学的に起こそうという様な難しい取組では決してない。 以下にCRPのまとめ方を記載する。

[CRPを活用した整理方法]

  1. 顧客を中心にして、会社の業務(営業・案件・受注・保守等)を考える。
  2. 自社業務プロセスを中心にして顧客の観点を考える。
    • 顧客の心理
    • 顧客が寄せる自社への期待
    • 顧客側のプロセス
  3. 顧客の観点をとらえた上で、自社の課題を考える。
    • 自社がとるべきアクション
    • アクションに対する目標値とKPI
    • 業務面での課題

これらの課題がすべて埋まったあとで、改めてシステムとして 取り扱うべき課題を考える。
そうすると、自ずと

  • 顧客に対し必要で管理しなければならない項目
  • 顧客と企業とで取り扱うべき項目
  • 社内業務として取り扱うべき項目

顧客の観点を加味して管理する情報を各部門で仕組としてシステムで管理する事で、自ずと各部門の社員がどう動くべきかが見えてくる。よって、社員は行うべきタスクに迷う事なく行動に移す事ができる。
そして、ようやく時間短縮、業務効率を上げることができるのである。

2:CRMとはCustomer Relationship Management(顧客関係管理)の略。

「顧客との関係性」の無駄を発見し、整理する

顧客接点の全体最適を作る

上記の様にCRPを整理すると、様々な無駄が発見される。
例えば顧客とのやり取り(オーダー、仕様変更、サポート等々)において、 部署間の連携ができておらず、顧客を必要以上に待たせたり、手続きが煩雑で余計な手間を取らせているといった状態である。これは社内プロセス上の問題であると同時に、顧客の不満を増幅させる要因でもある。

これらの問題は例えばWebサイトはマーケティング部門、商談-受注処理は営業部門、デリバリーは製造部門、保守はサポート部門、顧客接点となりうる部門がそれぞれに「生産性向上」と名を打った取組をしていても改善される事はない。 同様に、昨今は部門単位で簡単に導入できるクラウドアプリケーションが増えてきており、無計画にこういったツールを導入する事も、顧客視点からの全体最適を阻む要因となる。
自社のCRPをまとめた上で顧客情報の管理基盤を整えてから、顧客にとっても利便性が高くなる業務を、必要に応じてデジタル化していく方が有効である。

  • 「生産性向上」は内向きな社内の取組になりがちであり、それだけでは有効性が低い。
  • DXの様に、ビジネスモデル自体をドラスティックに変える前提であると、デジタル化が目的化してしまう可能性が高い。
  • 顧客視点から部門横断で、サービスの観点から自社プロセスを見直す・同時に「顧客はデジタルによる接点を求めている」という前提に立ち、顧客接点のデジタル化を行っていく。
  • 顧客接点のデジタル化において重要になるのは全社での顧客接点基盤の整備を先に行う事。
  • 顧客視点から部門横断で業務の不都合、無駄を見つけていく。

顧客管理システム(総合型CRM)が注目される理由

部分的な管理ではなく、顧客を中心とした全体的な管理を可能にしている顧客管理システム(総合型CRM) が注目されるのは、これまで述べてきた新常識の実現に非常に有効であるということも理由の一つとなるだろう。

シンキングリードが提供するF-RevoCRMはマーケティング、営業、プロジェクト管理、問合せ管理、購買発注管理など顧客接点となりうるモジュールを全てオープンソースとして提供されている。
CRM導入においては営業部門のみで活用というのは有効性が低い。その一方で様々な部門で横断的に利用を検討すると必ずネックとなるのが費用の問題である。

オープンソースのF-RevoCRMであれば、ユーザー単位での課金ではないので利用者数を気にせず活用する事ができる。またオープンソースであるが故他システムとの連携も柔軟に行う事ができる。 シンキングリードではCRPの整理からのお手伝いもさせて頂いているので「生産性向上」に取り組まないといけないと感じておられる方は是非一度問合せをして頂きたい。